後悔はしたくない

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 ファラがいつもの騎士としての態度で聞く。下僕から語られる内容は驚くべき物だった。貧民達の武装は正規軍と同様の物だと言うのだ。それは後ろ盾がある事を意味する。恐らく外部の勢力が貧民達に嗾けさせたのだろう。という事は街の外にも敵勢力が展開しているはずである。だが此方の張った網に掛からないのはまだ近くまでは来ていないという事でもある。早急に貧民達を粛正し街の防備を整えなければ。 「新しい報告です! 敵勢力は此処を一直線に目指して動いています。先陣を切っているのは――《均衡》です」 「何だって?」  ファラは驚愕の面持ちだ。だけど私は驚かない。こんな可能性もあるだろうと予想していたからだ。 「早く此処からお逃げくださ――」  突如轟音が辺りに響く。天井が割れてそこから黒い影が降ってくる。 「《均衡》……」  黒い異形の甲冑に身を包んだ彼――《均衡》その人が私の目の前に立っていた。 「死ね」  その場にいた皆が呆然と動けないまま《均衡》は瞬足で私に近づき剣を私の腹部に深々と突き込んだ。鈍い熱が徐々に膨らんで私の体を蝕み始める。  ああ……これは痛みだ。  女である事を捨てた私にとって、愛しい想い人からもたらされる痛み。破瓜の痛み。ああなんて素晴らしいのだろう。  肉薄する鎧の中から苦悶に満ちた慟哭が聞こえる。彼は遂に人の心を取り戻したのだ。他でもない私の手によって。満足感を得る一方で急速に私の体から力が抜けていく。最期に彼の異形の兜にキスをするとそこで私の意識は途絶えた。
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