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そう言ってファラは背筋を伸ばして椅子に座り直す。さっきまでの愛らしい彼女は消えて、そこには凛とした雰囲気の姫騎士がティーカップを傾けている。でもそれは簡単に剥がれ落ちる漆喰の壁みたいな上辺だけの態度に過ぎない。だってファラったら「メイドに新しいケーキを持ってこさせましょうか」と言うだけで楽しそうな物を見つけた子供みたいに目をキラキラさせるんだから。
「あまり甘いものばかり食べると太るわよ」
「大丈夫ですよ。今日は早朝から皆で稽古していたので、今食べてる分は帳消しです」
ファラはよく分からない理屈を自信満々に言ってポニーテールを一度靡かせる。出るとこは出て引っ込むところは引っ込んだ凛とした雰囲気を醸し出す美人はこういう所で得していると思う。ちょっとお間抜けな百面相をしたり年齢にそぐわない子供っぽい態度をしても、長い髪を一振りしキリリとした視線で相手をみつめれば、もうそれだけで対面した人は「ああ、この人は美人だな」って思ってしまうんだから。だけどいつもならすぐに崩れるファラの顔は珍しく真面目なままだった。
「ファラ? お茶の時間の最中にまじめな顔をしたままなんて貴女らしくない……どうかしたの?」
ティーカップの揺れる水面をじっと見ながらファラはポツポツと喋り始める。どうやら私に話そうか迷うような内容だったのだろう。でなければお茶を飲む前に話を切り出すはずなのだから。
「最近この街の状況なのですが……何かがおかしいのです」
「どんな風に?」
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