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気が付けば大領主であった父がいつの間にか死んでいて私はその後を継ぐ事になっていたのである。しかし女だった私が父の後を継いでもやはり反発は免れないだろうと、忠実な下僕達からのありがたい進言で私は父の残した唯一の嫡男として振る舞うことになったのだった。その時は別に男として振る舞うことに何の苦痛も感じなかった。元より胸なんて無いに等しい大きさだったしコルセットで胴体を締め上げるのからさらしで胸を締め上げるのに変わっただけ……そう思いながら生活していたのだ。そう彼に会うまでは。
「だそうで……これは裏で何者かがこの街を攻撃しているのではないかという結論になったのですが――アレックス?」
「え? なあに?」
「私の話を聞いていましたか?」
「ごめんなさい。少し昔の事を思い出していたの」
私が謝るとファラは少し怒気を孕んだ声でしっかりしてくださいと言い話を続ける。でも私の思考は再びファラの語るこの街の潜在的脅威よりも彼の記憶に傾いてしまう。
彼――父が送り込んだスパイ。
父は私の忠実な下僕に暗殺される前に自分に身の危険が迫っていると悟った様で、それを阻止すべく私の元に一人の騎士を送り込んできたのだ。我が家に秘匿される大魔術の粋を集めて改造された強化人間。表向きは私を守る騎士として、裏では私の動向を探り必要であれば殺す暗殺者として。でも私は彼に殺される事なかった。なぜなら彼はその過酷すぎる改造手術のせいで命令されなければ何一つ実行しない肉人形になっていたからだ。父が私の殺害命令を彼に下す前に私の下僕が父を殺してしまったせいで彼の中で私が次の主であると上書きされてしまったのだ。
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