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 庭にパンジーの花がたくさん咲いていた。初夏だった。日差しは強くて、日当たりの良い待合でうたたねをしていると、首元がじっとりと汗ばんできた。  看護師達が蟻のように、部屋から部屋へ出たり入ったりしていた。子供のころ、飽きもしないで眺めていた庭の風景とそっくりだなと、Kは目をつぶりながら考えていた。しばらくそれを眺めているうちに、忙しそうな看護師達の様子が、何か緊急事態が起こったかのように見えてきた。もし、妻に何かがあったなら俺に声がかかるはずだが、とKは思いながら、不安げにその様子を見守っていた。看護師達は蟻のようにせかせかと、部屋の間を行ったり来たりしていた。しかし誰もKに声をかけない。おかしいなと思いながらもその様子をじっと眺める。看護師達はますます慌てて動き回っている。ついに我慢ができなくなってKは椅子から立とうとした。それから、自分がまだ寝ていることに気づいてぱちりと目を開いた。看護師達は夢の中よりはゆっくりと働きまわっていた。そして、夢の中よりも待合の色は暗かった。日が傾きかけていたのだ。病院の音が耳に入ってきた。     
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