ある出会いの一つ

2/5
前へ
/5ページ
次へ
前からずっと思っていた。 街にくれば、私みたいな小さい存在でも変われると。 実家は山の中。友達はいない。 周りはみんな両親と変わらない年齢。 夜、山の頂上から見える眩しい街の灯りが 私の望みを叶えてくれると信じていた。 心配する両親を説得して、大学に合格。 春の空気は期待と不安でいっぱいな心に勇気をくれるような気がした。 そして半年が過ぎた今。 「ねぇ。食べてくれるよね?」 「アタシ達と違ってぽっちゃりしてるし」 おかしいと思ったんだ。 大学で初めて友達ができた。それも二人! 両親に報告したらとても喜んでくれた。 でも現実は友人とは名ばかりの使いっぱしり。 今日は珍しくカフェに誘ってくれたと思ったら。 「アタシ達ダイエットしてるからさ」 じゃあなぜこのカフェに来たの? 「ここのタベモノを写真サイトにあげてる人が多くって」 「アタシ達は写真が撮れたらいいの。で、あんたが食べるの」 「その体型で食べられないわけないわよね?」 二人は意地悪く笑いながらそう言った。 ここの料理は誰もが写真を撮りたがるほどキレイで、 味も絶品という噂で持ちきりだった。 誘われて嬉しかったのはここに来て席に着く時まで。 私は後片付け要員として連れてこられただけだった。 目の前のフルーツパフェとナポリタンはとても美味しそうだったけど、 胸が苦しくてとても食べられそうにない。 いつもだったら食べられる。 ここに連れてこられた理由の切なさと、 もし食べなかったらフルーツパフェとナポリタンが無駄になる悲しさで ただ座っているだけなのにとても辛いのだ。 向かい側ではしゃいでいる二人の“友人もどき”は携帯端末で 何回も写真を撮っては写真サイトにあげている。 ああ、パフェのアイスが溶けてくるし、ナポリタンも冷めてくるし…
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加