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10分くらい時間をかけて写真を撮った彼女達は
「じゃあお願いね」と席を立ってレシートを私に渡してきた。
「どうして?」
「当たり前でしょ?アタシ達は食べないんだもん」
「あんたが食べるんだから払っといてよね」
「そんなぁ…」
彼女達が私を置き去りにしてカフェから出ようとした時、
「お二人さん。お代を払ってもらえますか?」と引き留める声。
店員の男がA4サイズのコピー紙を二人の目の前に突きつけた。
「うちでは“オーダーした人が払う”事になってるんですよ、お嬢さん」
そこには『代金は注文した本人が払う』と油性ペンで書いてあった。
「たまにいるんですよ。
写真を撮るだけで、食べないからと代金を払おうとしないお客さんが」
180センチはあろう筋肉質で目付きの悪い男の迫力。
加えて彼の低く響く声が二人を萎縮させた。
「あ、あの子が払うので…」と“もどき”の一人が答えると
「あたしゃ見てましたけど、頼んだのはあなた達で
そちらのお嬢さんは何にも頼んでませんよ」
隣のボックス席にいた着物姿の初老の男性が言う。
「頼んだものを食べねぇでその代金を他のもんに払わせるなんて、
俺っちには信じられねぇけどな?」
男性と一緒にいた同じような着物を着た
20代後半くらいのイケメンさんが二人を睨んで言った。
彼らから放たれた言葉は二人の勢いを削ぐのに十分だった。
彼女達はフルーツパフェとナポリタンの代金を払って、
あわてて店を出ていった。
「評判の店ってのも大変だねぇ」初老の男性はくすくすと笑った。
「高校の時の友人がグルメライターやってて、そいつに任せたらこれだよ」
店員さんは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「その“チラシ”、奥で急いで書いてたでしょ?」と初老の男性。
「『代金は頼んだ人が払う』なんて当たり前だしな」
イケメンさんが意地悪そうに店員さんの方を見た。
「しょうがないだろ?ああでもしなきゃ納得しないだろうし」
と彼は照れながら言った。
三人の会話でピリついたカフェの空気が変わる。
それまで落ち込んでた私の心も救われた気がした。
「おっと、この二つは処分しなきゃ…」と
店員さんがフルーツパフェとナポリタンを持っていこうとする。
もったいない!私はとっさに彼の腕をとり
「捨てるなんてダメ!私がいただきます!」と叫んでいた。
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