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 古い柱に、清潔感のある白い壁。  歩くとギシリキシリと鳴る床板。  窓から覗く外の庭には、色とりどりのコスモスが気持ち良さそうに揺れている。  店内に並ぶ棚と台に所狭しと並ぶのは、たくさんのパン。  全体的に薄茶色の、いかにも香ばしそうな全粒粉の山型食パン。  狸のようにずんぐりとした形が特徴的なカンパーニュ。  芥子の実がアクセントのあんぱん。  きれいなキツネ色に揚がったカレーパン。  田楽パンなどの個性的な創作パン。  その他にも、豊富な種類のパンがある。  賑やかな店内を行き交う客のトレイには、いずれもパンが目一杯載せられていて、それだけで、この店のパンがいかに客に愛されているのかがわかるし、かく言う僕も、今、ちょっとした衝撃を受けていた。 「味噌汁とパンが凄く美味しい。それに、この組み合わせ、意外と合う」  店の奥にあるイートインスペースにて。  先生お薦めの照り焼きチキンのサンドイッチと、イートイン限定で注文できる根菜の味噌汁を頬張り、そのあまりの美味しさに感嘆する。  ボリューム満点の具をしっかりと受け止める全粒粉のパンは、滋味溢れる旨味と香ばしい風味が絶妙だし、味噌汁も大豆の甘みがほんのりあって、優しい味だ。  この味噌汁に合うパンになるよう研究したのか、パンに合う味噌汁にしたのか。  いずれにせよ、この店のパンと味噌汁だからこそ生まれた、非の打ち所のない調和には驚かされた。  この店の常連である先生が仰るには、パンは職人が、具と味噌汁はパン職人のおつれあいである、あのエプロン姿の店員が作っているのだとか。  狐っぽいパン職人と狸っぽい店員。  二人がいないと、この店とパンは成り立たない。  だから、店名は"タヌキツネ(狸狐)のパンや"になったというわけだ。 「いいな、このパン屋。他のパンも食べてみたいな。家のお土産にも買おう」  人は美味しいものを食べると、気分が高揚するのは何故なのか。  いつになく興奮気味の僕を見て、向かいに座る先生がクツクツと笑った。 「君、そのパンを食べた時のお父さんと、まったく同じことを言っていますよ」 「……父がなんですって?」  唐突に、身内と同じ言動をとっていると指摘され、高揚していた熱が一気に冷める。  うん、正直、今、ビミョーな気持ちだ。
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