14人が本棚に入れています
本棚に追加
1 誕生
1
満ち足りた暖かい場所。
潮騒のような柔らかな音。
頼もしい、ゆっくりした脈動。
呼吸する必要もなく、ただ存在し、揺蕩って、夢を見ている。
胎生の生き物の、体内にいるのだ。
そう、これは、生まれる前の記憶。
この世界に転生するために、小さな生き物の、小さな胎に、俺は融合したのだ。
元の身体は大きく、強く、膨大な魔力を持っていたが、温気に包まれ、夢見心地の中で、もうその姿も、記憶も、おぼろげだ。
まあ、いいか。
この体にすべてを預けて、休むとしよう。
ゆっくり魔力を溜め込んで、また新しく始めるのだ。
しかし、腹の管で母体と繋がっているのだが、流れ込んでくる魔力があまりにも少ない。
生まれたら早急に、魔力の溜まりを見つけねば・・・
そう、この事は覚えておかねば・・・
・・・・・・・・・
潮騒の、流れが変わったようだ。
脈動が早くなっている。
身体を包む膜状のものが、何度も収縮を繰り返す。
母体から切り離される時が来たようだ。
押し寄せる流れ。激しい収縮。下方へ押しやられる。
収縮、痙攣。収縮、痙攣。そして、収縮!
狭い場所から激しく押し出された。
さあ!新しい世界だ!
最初のコメントを投稿しよう!