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「その仔犬をゆっくりおろしなさい。怖がらず、ゆっくり」
同じくらいの少年が静かに横に並ぶ。
「若君、どうかそれをこちらへ。
振り向かず、そのまま静かに下がってください」
俺を手放したフランツと呼ばれた少年が下がると、母は歯を収め、少し警戒を解いた。
「その犬を殺「なんと素晴らしい母性でしょうね」」
フランツと、大人の女らしい声が被る。
「だって母上!見ていたでしょう!
あれが私にかみつこうとしたのを!」
「母の愛はすべてに勝るという事ですよ。覚えておおきなさい。
子を守ろうとする女性にさからうものではないわ。
ね。あなた」
もう一人の大人の腕を取る。
「母上の言うとおりだぞ、フランツ。
おいで。誕生祝いは別のものを望むがいい」
周囲の皆がほっと息を吐いた。
「よかったな」
俺を抱いた少年がささやく。
わかったからおろしてくれ。抱かれるのは好きじゃない。
しかし受難は終わらなかった。
「ねこしゃ!」
幼い声と共に引きはがされ、ぎゅうと抱きしめられた。
『ぐえっ』
少年はあわてて母の様子を伺うが、母はちょっと困った顔で首を傾げるだけ。
離れていこうとした一団が、立ち止まる。
振り向いたフランツの顔が怒りに歪んでいる。
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