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今から思えば、もっと上手にはぐらかせばよかったのに……
不覚にも嘘が苦手な私は「うん」と素直に答えていた。
その日の夜、いや通話を切ってから、ずーっと、自分の気持ちを認めてしまった事を眠れないくらい後悔した。
言いふらされるのではないかと恐怖も感じた。
でも、それは山本君も同じだろうし、私が言わなければ言われないと、何度も考え直していた。
当然、お互いに秘密にして、無かったことにして過ぎてゆくものだと思っていた。
それが、大人で、それが、相手への礼儀だと。
そう、勝手に思っていた。
でも、どうやら、事情は違っていた。
翌日から、山本君は、ぱったりと桐谷君の席に来なくなった。
私の近くに来なくなった。
それだけならよかったのだが……
「おはよう桐谷君」
「……」
いつもなら向けられる笑顔が無い。
そして、同時に、桐谷君からの朝の挨拶も無くなった。
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