リトライ

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その後、お互いに理系に進み、山本君とは選択科目が違いクラスが離れたものの、桐谷君とは三年間、結局同じクラスにいる。 でも、あの一件以来、ひと言も話をしていない。 話しかけることも、怖くて出来なくなった。 あの日以来、他の人と話す姿を盗み見る日々。 いつも横顔ばかりで、正面から見る事なんてなくなった。 それが、今さらこうしてまた前後の席にだなんて…… なったものの、話しかける予定なんて無い。 神さまは、すこしイジワルだ。 私は、ふーーーっと小さくため息をついた。 しかし数日後、それは、思わぬ形でやって来た。 日直。 それも、桐谷君と一緒に…… その日の日直が、黒板に翌日の日直の名前を書くのだが。 私は、帰り際、お気に入りの赤いリュックを担ごうとした時に気がついた。 思わず二度見する。 え……うそ……。 三年間で初めて並ぶ名前。 胸の奥で、鼓動がドンドンと、打ち上げ花火のように高鳴ってゆく。 それは、とてもうれしく、けれども緊張を強いられるものだった。
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