リトライ

42/135
前へ
/158ページ
次へ
さて、帰ろう。 渡り廊下にキュッキュッと響く上靴の音を聞きながら、一人てくてく歩く。 誰もいないことをいい事に、買ったままポケットに入れていたチョコレートの小袋を引っ張り出して、一粒口に含んだ。 まったりと溶けだすチョコが、疲れを癒す。 「こんな事なら、リュック持って来とけばよかった。かえって二度手間だった」 階段をのぼりながら、ぼやく。 まさか、職員室にザビエルがいないなんて想定外だった。 すっかり誰もいなくなった廊下や教室を横目に、静けさを感じながら歩く。 四階の一番奥の教室に戻ると、たった一人残った男子生徒の背中が目に飛び込んできた。 すっかり気を許していたところに、緊張感が走る。 入口手前で、足が止まった。 桐谷君だ。 勉強をしている。 いつもなら、この時間は自習室にいるはずなのに、今日はなぜか教室にいる。 本来なら、私も自習室に向かうところだったが、今日は疲れたので帰ろうと思っていた。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1000人が本棚に入れています
本棚に追加