リトライ

43/135
前へ
/158ページ
次へ
こんな日に限って、誰もいない教室に、ふたり。 私は、ふうっと息を吐き出して、邪魔しないように静かに席に着いた。 とはいえ、桐谷君の後ろの席だけど。 トントンと小さく音を立てながらリュックに教科書を詰める。 「お疲れさま」 顔を上げると、一年生の時と同じ姿で、桐谷君が横座りして私を見ていた。 「お疲れさま。今日は、ありがとう」 「こちらこそ、日誌ありがとう」 「日誌なんて適当だよ」 そのまま、静けさが広がる。 会話が、続かない。 「あ、これ、よかったら」 私は、机に置いていたチョコを差し出した。 「ありがとう」 普段なら男子ばかりで、暑苦しく、狭く感じる教室が、ふたりだととても広い。 その上、前後の席では、密着感を感じるというか、恥ずかしい。
/158ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1000人が本棚に入れています
本棚に追加