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「何だよそれ……。あ、分かったお前それ、ヤキモチだろ?俺がさっき可愛い後輩と話してたから」
『無い無い』と呆れながら言う彼女の言葉がすかさず返ってくると予想しながらも、場の雰囲気を和らげようとおどけて発した俺の冗談は、彼女にとっては触れてはいけない禁忌だったらしい。
弾かれたように俺を見て瞠目し固まる彼女。
一瞬で真っ赤に染まっていく。
……え?
彼女の表情に、俺の心臓がぎゅっと潰された。
「……ごめん。そうかも」
それだけ捨て置いて帰ろうとする彼女の腕を俺はいつの間にか掴んでいた。
嘘、だろ?
今までそんな事お互いに一ミリも意識したことなんてなかったんじゃないのか?
……違う、のか?
それは、俺だけ?
「えっと……それって、つまり……?」
俺の声が微かに震える。
一気に口の中が乾いていく。
正直そんな風に綾羽の事を見たことなんて今まで一度も無かった。
なのに何で今、俺はこんなに緊張している?
「ヤキモチ焼きなの、私……昔からずっと。気付かなかった?独占欲が強いっていうか……とにかく今日は帰る。……悠希に嫌われる前に」
「え?ちょっ、ちょっと待てって」
俺の腕を振り払おうと力を込めた彼女の手を、俺は離さないようにと力を込める。
「だって嫌でしょ?うざいとかって思うでしょ?……自分でも思うもんっ。ああもうっ、見ないで!本当に自分でもやだっ、こんな性格……」
振り払えないと分かると諦め、もう片方の腕で顔を覆う彼女。
隙間から覗かせる彼女の耳の赤さに俺の心臓がうるさく跳ねる。
俺はバカか?
何で、今まで気付かなかった?
こいつのこの、可愛さを……。
ああ、愛おしくて堪んなくなる。
了
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