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「ずっと貴方が好きでした」
コーヒーの香りが立ち込める店内で僕はそう言った。彼女の右手首を掴んだ左手が情けないことに震えている。
言った…言ってしまった。後戻りはもう出来ない。言葉に出して僕がこの2年間心に溜め込んだ気持ちを彼女に伝えてしまったんだから。
優しげな瞳が大きく開かれる。そして彼女の白い肌が徐々に紅色に染まっていく。
彼女に初めて出会ったのは2年前の冬。僕が大学2年の時だった。
午後の講義が突然休講になってしまった僕は暇を持て余し、電車が来るまでの時間が潰せる場所を探し駅の周りを歩いていたのだ。
そこで目に止まった一軒のカフェ。中からは洋楽が聞こえる。
…こんな所にカフェなんてあったのか。隠れ家でも見つけたような気分になった僕は意気揚々とその扉に手をかけた。
「いらっしゃいませ!」
店に足を踏み入れた瞬間に大きな声が聞こえた。
よく可愛い声の事を鈴が鳴ったようなとか言うけれど、彼女の声はまるで鐘だった。元気で溌剌としていて、それでいて優しい声。そしてそんな声とは真逆の大人しそうな容姿。僕は一発で落ちた。出逢って僅か3秒ほどで彼女に恋をしてしまった。
「ここのコーヒー絶品なんですよ」
極上の笑顔でそう言う彼女は、一年前からここで働いているとか。短大を卒業したばかりで年は20歳。僕の1つ上。
その日から僕は頻繁にその店に行くようになった。2ヶ月を過ぎる頃にはすっかり常連になっており「いつもの」と言えば通じるまでになった。
「最近良くいらっしゃいますね」
前に一度そう聞かれたことがある、その時はまだ君に会いに来てるなんて言葉を口にする勇気は無くて、
「ここのコーヒー絶品だからさ」
なんて言葉を代わりに言った。
「…えっと、その」
赤い顔を左手で持っている伝票で隠そうとしている彼女を見て、あぁ本当に可愛いなと思ってしまう辺り僕は重症だと思う。
「今まではコーヒーを飲みに、なんて言っていたけど…」
「…」
「これからは君に会うためにここに来ちゃダメかな?」
ほんとクサイ言葉だ。こんな言葉しか言えない僕を彼女はどう思って居るんだろう。
「お、」
「ん?」
「美味しいコーヒーを作ってまってます!」
あ、作るのは私じゃなかった。照れたように笑う彼女、それに重なるように誰かが店に入った事を知らせる鐘が鳴った。
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