マネキンと靴

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マネキンと靴

 私はアパレル系の販売員をしているのだが、店にそのマネキンが持ち込まれた時、何とも薄ら寒い気持ちになったのを今でもはっきりと覚えている。  女性を模した、どこにでもある普通のマネキン。けれどそのマネキンがたまらなく不気味に感じられて、私はなるべくそのマネキンに近寄らないようにしていた。  でもある日、あなたのコーディネートでマネキンに一式服を纏わせてと命じられ、私は仕方なしにマネキンと向き合った。  やはりどこからどう見ても、他の物と変わることのないただのマネキンだ。それでも嫌な感じが拭えず、私はぞんざいにならぬよう、だけど可能な限り手早く、自分なりの感性でマネキンを装わせた。ただ、ウチの店はトータルコーディネートの際、マネキンの足元に靴も揃えて飾るのだが、店にマネキンを飾る時、忘れたフリで靴だけは側に添えずに置いた。  その翌日出勤すると、職場がとんでもないことになっていた。  店中が荒らされ、服やマネキンが辺り一面に散らばっていたのだ。  店長がすぐさま警察に通報し、空き巣の犯行だろうということで現場検証が行われたが、私はぼんやりと、この惨状はあのマネキンのせいではと思っていた。  だって、店に入って酷い有り様を目にした時、私は反射的にあのマネキンを見て、とあることに気づいたから。  昨日、私はマネキンの足元に靴は添えなかった。なのに荒らされた店内に倒れているあのマネキンの足元には、私は決して用意しなかった靴ががっちりと嵌っていたのだ。  マネキンの足に嵌っていたのは、店で取り扱っている子供用の靴だった。
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