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第一章 凪沙との出会い
初恋は叶わないものだと相場が決まっている。
だったら叶わない恋に、伝えられない想いに青春をかけている俺は馬鹿なのだろう。けれど、俺の場合はもう依存なのだ。
今電車の隣の席で俺の肩に頭を預けて、気持ちよさそうに寝息を立てている六年越しの片想いの相手。
「着いたら起こしてね、じゃないと寝過ごしちゃうから。シュウが隣にいたら安心。乗り物で眠くならないなんて不思議。俺、バスでも電車でも眠たくなるのに」
乗り物だけじゃないだろ。どこでもいつでもすぐ寝てしまうくせに。
俺は隣で眠っているお前の顔を堂々と見ていられる機会を逸したくない、だから寝ないんだよ。そんな事は言えないから、ただ「ああ」と一言答える。
凪沙はその返事を聞くや否やすぐに俺の肩に頭を預けて目を閉じた。
幸せそうな顔をしてやがる。
寝顔をじっと見ていたら磁石のS極とN極が引き合うかのように俺の手は凪沙の肩へと引き寄せられていく。
凪沙の肩越しに見えた自分の右手に、はっと我に返る。その手を凪沙の肩に落とす代わりに宙でぐっと握りしめた。
そして行きどころを失った右手を自分の頭の後ろへと追いやった。
頭と窓に挟まれた右手に冷たさが伝わりその熱を奪っていく。
何やってるんだ俺……。
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