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たった数時間だったかもしれない。
だけど、クロは葛西を真っ向から慕ってくれた。
「予約させてください」
涙が頬を流れ落ちていく。
「クロと話がしたい」
「僕の喫茶店の通貨は紙でも金属でもないですよ」
鎌が首を裂き、うっすらと血が滲んだ。
「主に命です」
「待ってください。俺は生きています。昨日の代金はどうなったんですか?」
「主に命と言ったでしょう? それ以外でいただくこともあります。けど、あなたは何も心配することはありません。昨日のあなたのお代、あなたが何も失うことのないようにと、クロ君から頼まれていましたので、全額をクロ君からいただきました。僕達も、一度で寿命のすべてを奪うわけではありません。今回はクロ君が元々死にかけていたうえ、喫茶店での対価も支払い、彼の命を絶やすことになりましたが」
「せめて、喫茶店の代金の折半できませんか?」
鎌が僅かに下がる。
「俺の分は俺が払います! だから、クロを死なせないでください!」
「人は」
鎌が空間に吸い込まれる。
振り返ったそこに、黒いローブ姿のユイトがいた。
「面白いですね」
ユイトが右腕をあげる。
太陽が出ているはずなのに、辺りが闇に包まれた。
ユイトがいなくなり、代わりに透明なドアが現れる。
葛西は喫茶店に入り、ビー玉の細工を横目にカウンターへと向かった。
クロは葛西を見て驚き、そして、涙を浮かべた。
完
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