10人が本棚に入れています
本棚に追加
01.逢魔が時
僕は目眩と吐き気を催した。
今日は散々な日だ。母さんの言う通り、上京なんてすべきではなかったのかもしれない。
ニシナさんが滅入った様子で肩を叩く。これまでの事情を問う彼に、僕はなんとか頷いた。そう、まずはどうしてこんな状況に陥っているのか。僕自身も冷静にならないと。
改めて顔を上げた僕の前には、口元に笑みを浮かべる薄気味悪い男。そして、天井の梁で首を吊った女性。どちらに嫌悪感を覚えたのか定かではないが、僕は渇いた唇を舐めた。情けないことに、握りしめていた着物の裾は手汗で湿っぽい。
「ええっと……この宿についたのはお昼過ぎでした。その後、汽車に揺られて疲れていたので、ゆっくりしてから。荷物をここに預けて出て行く間が……。1時間くらいかと……。どちらも帳場へ声をかけたので、確認して下さい」
「宿で過ごしたその1時間が鬼門だが……。君は嘘をつく性格でもないし、そもそも理由もないが……。あとで確認しておこう」
ため息が止まらないニシナさん。もとい、ニシナ警部のペン先は手帳を力なく引っかいている。
「その後はニシナさんもご存じの通りです」
最初のコメントを投稿しよう!