01.逢魔が時

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01.逢魔が時

 僕は目眩と吐き気を催した。  今日は散々な日だ。母さんの言う通り、上京なんてすべきではなかったのかもしれない。  ニシナさんが滅入った様子で肩を叩く。これまでの事情を問う彼に、僕はなんとか頷いた。そう、まずはどうしてこんな状況に陥っているのか。僕自身も冷静にならないと。  改めて顔を上げた僕の前には、口元に笑みを浮かべる薄気味悪い男。そして、天井の梁で首を吊った女性。どちらに嫌悪感を覚えたのか定かではないが、僕は渇いた唇を舐めた。情けないことに、握りしめていた着物の裾は手汗で湿っぽい。 「ええっと……この宿についたのはお昼過ぎでした。その後、汽車に揺られて疲れていたので、ゆっくりしてから。荷物をここに預けて出て行く間が……。1時間くらいかと……。どちらも帳場へ声をかけたので、確認して下さい」 「宿で過ごしたその1時間が鬼門だが……。君は嘘をつく性格でもないし、そもそも理由もないが……。あとで確認しておこう」  ため息が止まらないニシナさん。もとい、ニシナ警部のペン先は手帳を力なく引っかいている。 「その後はニシナさんもご存じの通りです」     
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