955人が本棚に入れています
本棚に追加
すると、遼太郎はすでに結論を用意していたのだろう。考えることもなく、すぐに答えが返ってきた。
「君が本気でそう思ってるんなら、俺はこれから警察に行く。君が先生を刺したナイフは、まだ俺の家にある。それを警察に持っていって、君を逮捕してもらう。脅しじゃない。君が自分の力で正しい道を見つけられないのなら、犯罪者を野放しにはできない。罪を償ってもらう」
『犯罪者』という言葉を突きつけられて、陽菜は息を呑んだ。遼太郎の確固たる意志をここまで見せつけられて、反撃もできず、逃げ場もなくなった。愚かな自分が炙り出されて、涙が自然にこぼれ出てくる。
陽菜が泣き始めても、遼太郎は厳しい表情を崩さなかった。陽菜を正面からジッと見据え、そこから出てくる返答を待った。
傍目で見ると、別れ話をしているカップルにしか見えないかもしれない。そんな二人を、佐山も陽菜の背後から見守っている。重苦しい沈黙が漂ったまま、時間だけが過ぎ去っていく。
夕日が沈み、街路灯が点り始める。ファミレスのお客さんも増えてきた頃、ようやく陽菜は涙を拭い、決意を含んだ息を吸い込んだ。
「……もう、いいです。狩野さんの前で、可愛い女の子を演じるのも本当の自分の気持ちを貫くのも、疲れました。……実は、両親から海外留学を勧められてるんです。狩野さんと離れたくなかったから、ずっと拒み続けてたけど……。でも、決心がつきました。もう二度と狩野さんの前には、姿を現しません。」
最初のコメントを投稿しよう!