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ここに来るまでは、陽菜のことが憎くて憎くてしょうがなかったのに、こうやって顔を合わせてみると、比較的自分が落ち着いていることに遼太郎は気がついていた。
ここでこの前のように、陽菜を責め立てても何も問題は解決しない。今、この陽菜から聞きたいのは、開き直った形ばかりの謝罪ではない。
「……大学に、来ていないみたいだけど?」
なるべく普通に、大学のゼミ室で会話するように切り出してみたけど、陽菜は向かいに座った遼太郎をジッと見つめたまま、何も言葉を発しなかった。
普段の遼太郎ならば、こんなふうに陽菜に声をかけてくれたりすることはなかった。こんなふうに、会いに来てくれることもなかった。
遼太郎をこうやって突き動かしているのは、自分のためでも、ましてや陽菜のためでもなかった。ひとえに、みのりのため。それは陽菜にも痛いほどよく分かっていた。
初めからまるっきり望みのない相手だったのに、どうしてあんなにも〝彼女〟になれると信じて疑わなかったのだろう。
陽菜の中には、一種の驕りがあった。容姿も才能も機転も、周りにいる女の子の中で自分が一番抜きん出ていると思い込んでいた。こんな自分を好きにならない男子なんていないと思っていた。遼太郎の過去の彼女たちよりも優れている自分は、遼太郎の彼女になって当然だと思っていた。
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