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陽菜から出てきたその言葉を聞いても、遼太郎の表情はほころばなかった。ジッと陽菜の表情を見極めて、そこに〝嘘〟がないか確かめる。
「……分かった。」
一言だけ陽菜に告げると、陽菜の注文した伝票を手に席を立った。
佐山の注文した分の伝票も一緒に会計を済ませると、遼太郎は佐山と一緒にファミレスを出た。
話の成り行きを心配した佐山が、遼太郎を覗き込むように問いかけてくる。
「陽菜ちゃん、ちゃんと謝罪したか?」
「いや……。」
陽菜は結局、自分の気持ちと遼太郎との関係に折り合いをつけただけで、一言も〝謝罪〟に値する言葉は発しなかった。そもそも、もっと素直に自分の非を認められる人間だったら、あんな事件を起こしたりしていない。
「なんで謝らせないんだよ!」
佐山はまるで納得がいかないらしく、眉間に皺を寄せた。
「……いいよ、もう。」
遼太郎は短くそう言って、駅への道を急いだ。
此の期に及んで、筋を通したいとは思わなかった。ほしかったのは、謝罪ではない。みのりが安心してくれる状況だ。陽菜はもう二度と、姿を現さないと約束してくれた。今の遼太郎には、それだけでよかった。
佐山の腑に落ちないような表情に、ニコリと仕切りなおしの笑みを投げかけると、遼太郎の気持ちが逸り始めた。
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