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「あのオヤジの行ってた南方の戦線じゃあ、ずいぶんと飢餓に苦しめられて、死んだ仲間の肉を食うこともあったって話だぜ。その時の味が、帰って来ても忘れられなかったのかもしれねえなあ……」
最後にそう言うと、「おまえならわかるだろう?」というような眼差しをして、その視線を俄かに騒がしくなった店の入口の方へと向ける。
いまだその意味を解さぬまま私もそれにつられて見ると、店からは制服の警官や鑑識の人々がわらわらと出てきて、ブルーシートのかかった担架も運び出されてくる。
「あっ…!」
と、その時。
担架を運ぶ前の者がよろめき、ブルーシートの下から何やら白いものが地面に溢れ落ちた。
一瞬の出来事ではあったが、慌ててそれを拾い上げる警官の手にあったものが、真っ白い大きな骨であることは確かに見てとれた。
大きさからして大腿骨であろうか? 焼き場で焼いたのでも、自然に白骨化したのとも違う、本当に真っ白く綺麗な骨だ。
まるで、長い間煮詰めて、不純物をすべて出し尽くしたような……。
わざわざ担架で運んでいるので、豚や牛の骨などということはあるまい。ましてや鶏では大きさからして違う。
つまりは、あれは被害者達の…人間の骨……。
「そうか。あのスープの出汁の正体はアレかあ……」
その真っ白く、まるで浄化されたような美しい骨を見て、私は先程、常連客から聞いた言葉の意味を今さらながらに理解した。
そして、その驚愕の真実を前にしても私は驚くよりもまず先に、ようやく謎が解けたことで胸がスッキリしたとでもいおうか、あのえもいわれぬ味の正体がとんでもないものだったとわかってもなお、むしろ「納得」といった方が近しい感想を抱いていた。
とても場違いな気もするが、そんな爽快感を覚えながら引き続き警察関係者達を眺めていると、中にはあの店をこっそり覗がっていた“カタギじゃない”男達の姿も見受けられる。
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