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お母さんに勧められ、初めてのバイト面接に行ったのは高校二年生の春だった。一人で訪れたのは、周囲には何もなく、日当たりはいいけど街はずれにぽつんとある花屋さん。店頭にも、そして、店内にもたんぽぽばかり溢れており、それ以外の花が見当たらない。
疑問に思いながらたんぽぽを眺めていると、店の中から声が聞こえた。
そして、その穏やかな声と共におばあさんが一人。
「もしかして、あなたがアルバイトに来てくれたお嬢さん? お母さんから話は聞いてるかしら」
出てきたのは、如何にもおばあちゃんって感じの人だった。周りにあるたんぽぽと同じように黄色と緑の配色が目立つ服を着ていて、明るく笑うところなんかはひまわりっぽい印象を受ける。でも、総白髪の頭を見ているとたんぽぽの綿毛のようで、『たんぽぽ屋』の店主としてぴったりの見た目だ。
私がじっと見ていたせいか、たんぽぽのおばあちゃんは軽く首を傾げる。真っ白な髪が、風に揺られた綿毛のように動いた。
「わ、私、母に言われてここに来ました。アルバイトとして働かせてくれるって聞いて……」
緊張しながら答えるけれど、おばあちゃんはそんな私の心を見透かすように目を細めた。
「ふぅん、ずいぶんと綺麗なお嬢さんが来てびっくりしたわ。うちは『たんぽぽ屋』っていう花屋さんなの。土を運んだり、虫を追っ払ったりすることもあるけれど、そういったのは平気?」
「はいっ、全然大丈夫ですっ。……それと、ここでバイトしてると落ち着いた女性になれるって本当ですか? お母さんが……じゃなくて、母がここで働けば丁寧な所作が身につくって言ってたんですけど……」
恐る恐る尋ねると、おばあちゃんはにっこりと笑った。
「ええ、本当よ。あなたのお母さんも、最初は少しやんちゃな女の子だったけれど、しばらくすると見違えるようにおとなしい人になったわ」
それを聞いて、胸に抱えていた不安が消えた。
私がここで働きたいと思ったのは、ここで働いていると落ち着いた女性になれるというお母さんの言葉があったからだ。中学生から女子高生になって、いろいろと成長したつもりだったけど変わったことなんて年齢と勉強内容と制服くらいで、肝心な中身は全く成長しないままだった。
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