たんぽぽ屋さん

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「素敵なことでしょう? こんなおばあちゃんでも、沈んだ心の人を癒してあげることができるの。これからここで働く美咲さんには、きちんと教えてあげるわ」  お花さんは立ち上がり、軽やかな足取りでレジの横に置いてあったお菓子の袋を持ってくる。既に置かれているティーポットと合わせて小さなお茶会のようだ。 「私はね、ここでピアヘルパーをやっているの」 「ピアヘルパー、ですか……?」  反復して尋ねると、お花さんはしっかりと頷いた。 「美咲さんは私とお客様が何を話していたのか気になったみたいだけど、私は何も話していないわ。ずっとお客様のお話を聞いて、相槌を入れて、頷いて、たまに声をかけるくらい。相談に乗るんでもなく、悩み事を聞くのでもなく、ただただ聞き役をしていたの」  ようするに、愚痴を聞いていたということだろうか。でも、たったそれだけであんなに心が晴れた雰囲気になるだろうか。私だって友達と愚痴の言い合いをすることはあるけれど、あんな風になったことはない。 「ピアヘルパーが聞き役っていうことはわかりましたけど、それって学校カウンセリングみたいなのとは違うんですか?」 「似ているけれど別物よ。……でも、確かにカウンセリングと似ているかもしれないわ。ここへ話をしにくるお客様は、みんな身内に不幸があった人ばかり。やりきれない気持ちを吐き出すためにここへ来るの」  お花さんは、変わらず穏やかな声で言葉を続ける。 「テーブルの真ん中にたんぽぽを置いて、思いのままを話してもらう。そして、ぞんぶんに言葉を吐いて心が軽くなったらそのたんぽぽを持ち帰って育てるの。ゆっくりと成長したたんぽぽはやがて綿毛になり、それを風に乗せて空へ飛ばすところまでが一つの流れよ」 「……そういえば、ここで売ってるたんぽぽって全部花の状態ですよね。それって、お客様に綿毛まで育ててもらうためだったんですか」 「あまり知られていないけれど、たんぽぽの綿毛は死者の魂を空へ運ぶ手伝いをするのよ。理不尽な運命のせいでやりきれないまま死を迎えた魂を還す。その役目は、残された人たちがしてあげるべきことだから」
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