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今思えば、あの時、店主のお爺さんは、既に店をたたむつもりだったのかもしれない。
あの複雑な表情は、そういった感情がない交ぜになった結果、生まれたものだったとしたら……とりあえず説明はつく。
だが、僕はあの店には、もう二度と訪れることが出来ない。
その事実はどこまでも冷たく、また確実なものだった。
あの店にあったものは……いったい、どこへ消えてしまったのだろう?
そんな思いを抱える僕の頬を、一筋の涙が伝っていくのがわかった。
僕は嗚咽も何も無く、ただ涙を流していた。
僕はまた一つ、後戻りが出来なくなってしまったのだ。
ため息のように深く吐いたタバコの煙だけが、潮風に吹かれてどこまでも尾を引いて流れていった。
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