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誰も居ないし、何もなかった美しい部屋には今や、無数と表現して過言でない程の人が犇めいている。大きく分けて五つのグループがあって、そのひとつが私の交じった論客集団だった。彼らは中央の机の一角を使い、国語の勉強を続けている。
私は、薄顔の男の子と隣同士に並ぶことにした。彼は山崎くんというらしい。
「ここには良く来るの?」
私の質問に、彼は軽い口調で頷く。
「うん。ほぼ毎日」
「毎日って、……この時間に?学校は?」
「そのうち行くよ」
随分な言い方だ。
つい吹き出して笑っていると不意に、先刻教師じゃないかと思った低い声の男性が近づいてきた。よく見ると顔は若いし、服も学ランだ。彼は私に、何かの物体が載った小皿を差し出した。
「えっと……?」
鬼教官風の学生は何も言わない。代わりに山崎くんが言う。
「食べてみて」
私はその物体をひとつ手に取ってしげしげと見た。芋だ。大学芋。普通よりも黒っぽいから、一見しては判らなかった。恐る恐る口に入れるとほろほろと崩れて甘味が広がり、薄い飴が舌で蕩けて幸せな気分になった。
「おいしい……」
「“先生”が気に入った回答者にあげるご褒美なんだよ。日替わりだし教科によっても味が違う」
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