トレモロ

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 部活に出るのが苦しくなって、クラスの部メンと顔を合わせるのがしんどくなって、そんな時、一度憂鬱な気分のままこの屋上へ来たら、それがなんだか癖になってしまった。今じゃ部活どころか授業だってまともに出ていない。  気付かなければよかったな、と思う。友達がスムーズに習得していく手首弾きがいつまでも出来ないし、技巧はどうしても滑る。勉強だってちょっと止めたら取り戻せなくなった。みんなは遥か遠くへ行ってしまった。私って、もうちょっと出来る奴だと思ってた。実は結構、落ちこぼれだったんだ。気付いてしまった。  考えているうちに凹んできたので、空からさっと目を逸らす。逃げよう。本の世界に没頭しよう。幸い中学生の今ならば、いくらサボったって卒業できる。いつか学校から親に連絡が行くその日まで、永遠にサボり続けてやるんだ。  ―――ガタッ。  目を文庫本に戻した途端、物音がして振り返った。誰もいない。風のせいとは思えない音だったのに。点検の人でも来たのだろうか?それとも教師?  ぐっと深呼吸して、本を両手でしっかり持って、脇をがっつり締めて、そろそろと、配管の上を渡った。現在地と真反対にここに入る為のドアがある。そこへ、鈍足で向う。  私の身体が到着してしまったその時、ドアが開いた。 「やっぱり。ここに居たんだね」  また一陣、風が吹いた。現れたのは、私の知っている人だった。  声を失くし、黙ったままの私を解釈しようという気もないのか、先輩は笑顔でいる。そしてこう放言した。 「これでお節介は終わりにするから。騙されたと思ってついてきて。来て欲しいところがあるの」
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