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校門を出る際、私は周りの眼を気にしてドキドキしたが、先輩に手を掴まれていたからか、守衛のおじさんには何も言われなかった。私も先輩も鞄ひとつ持っていないというのにさすがだ。たった一人しか枠がない有名大学の指定校推薦を貰っているだけあって、先輩は信用されているんだろう。まさか後輩をサボりに連れ出す所だとは誰も思わないのだ。
「何処に行くんですか?」
道中、私が訊くと、
「行けばわかるよ」
先輩はそれだけ言った。彼女とあんまり話したくないので、私もそれ以上は訊かなかった。
知らない道を曲がりくねって、およそ三十分は歩いた頃だ。
私の通う女子校が建っているのは、都心の一等地で、どこもかしこもビルばかりの、チューナーで調律されたみたいな街なのだが、そんな路に唐突に現れた、レトロを通り越して不潔な年季を感じさせる一軒家の前で、先輩は立ち止まった。どうやらここが目的地らしい。
古びた窓、折れそうなトタン屋根。「鈴木大学芋店」と書かれた看板。――大学芋店?だめだ、訳が分からない。けれど何度見ても看板の文字は変わらない。
「行けばわかるから」
先輩はついに歩を進めて、店の目の前まで私を引っ張った。汗まみれの右手に、何かが載せられる。重みのある金属の塊。ドアノブだろうか。見上げれば、壁の扉に不自然な穴があった。それを先輩が指差している。
私は息を吸って胸を数度膨らませたあと、勇気を出してそこにドアノブを嵌めた。
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