トレモロ

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 次第に寝たふりを忘れて、端から両目で読むようになる。  物語は、思春期の少年が主人公だった。兄と喧嘩しているシーンが描かれている。たった三枚のプリントに印字された量では掻い摘まみ過ぎでもどかしい。少年がどんな理由で兄と喧嘩になったのか、この後仲直りできるのか、全く分からない。  だけど、その分想像が捗った。私は何度も同じ部分を繰り返し読みながら少年の気持ちに浸り、泣きたい気持ちを味わった。 「そこまで!」  唐突に怒号が轟いた。低い威圧的な声が、私には見えない位置から聞こえてくる。同じ声が続ける。 「十分に読めたはずだ。議論の時間に入る。始め!」  教師らしきその人がそう合図してからは、恐ろしいほどだった。 「最初に分かれようぜ。登場人物たちは仲直りできると思うか、否か。俺は否だな」 右側のほうから威勢よく誰かがそう言うと、左側から反論が上がる。 「ならオレは保留だ。現時点で結論付ける根拠が見当たらない」 「は?そりゃお前がちゃんと読んでないだけだ」 「なんだと?!」 彼らが左右で睨みあっていると、また別の生徒が口を出す。     
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