気になるあの子

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気になるあの子

「文明は飽和することはない。技術進歩がある限り、飽和点は上昇し続ける。しかし人間は変わらない。感情がある限り、人間は人間であり続ける」  アキラは愛読している本の一文を心の中で読み上げる。朝食を軽く済ませると彼はスーツに腕を通し、ネクタイを締め、会社へ向かうために玄関のドアを開けた。そして敷地内に置かれている球体に乗り込む。それは1人分のスペースしかなく、ソファといくつかの機器で構成されていた。彼はそれらを操作すると球体は静かに小さく浮かび上がり、会社へと移動を始める。彼が乗った機械は、通りすがりの人々や乗り物を識別・回避して、安全に目的地へと進む。 かつて通勤といえば電気で動く鉄の箱に揺られるのが日常だった。しかし、それは何百年も昔の話。すでに遠い過去のものとなり、今では歴史博物館でしか見られない。もっとも、その博物館そのものが忘れられた存在となり、足を運ぶ人はほとんど居ないのが現状だった。
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