気になるあの子

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 会社へ到着すると彼は球体から降りた。残された球体はオート機能で指定の停留先へと向かっていく。それを確認してから彼は会社の自動ドアをくぐる。 「おはようございます」  受付に座っていた女性が立ち上がり、彼に話しかける。 「おはようございます。8階の総合技術部に所属しているアキラです。本人確認をお願いします」 「少々お待ちください」  そう言うと彼女は本人確認用の専門機器を取り出す。それを使って声紋や指紋、耳紋などを照合し、アキラがアキラである事を確認する。彼はこの時間がとても気に入っていた。彼女と最も長く過ごすことができるから。彼はこの受付嬢の事が好きだった。無機質ながらも笑顔を絶やさない彼女の姿勢にいつの間にか惹かれていた。社員と受付嬢という立場を考えると会社でしか会えないし、長い時間話すことも出来ない。だから彼にとってこの本人確認の時間は貴重なものだった。時間が掛かり、社員の誰もが面倒だと文句を言う中、彼だけは特別なものだと捉えていた。 「確認が完了しました。貴方は8階の総合技術部に所属しているアキラ様で間違いございません。ご協力感謝致します。ありがとうございました。本日もよろしくお願いします」 「こちらこそありがとう。またね」  彼はそう言い残すとエレベーターへと乗り込んだ。そのドアが閉じるまでずっと彼女を見つめていた。箱は静かに上昇し、ポーンという音とともに目的の階で止まった。彼はいつものようにすれ違う仲間達に挨拶をしながら自分のデスクへと向かっていく。デスクに荷物を置き、椅子に腰掛けてふと窓の外に目をやる。少しくすんだ青空に白い雲が浮かんでいた。どこにでもある、とても見慣れた光景。  一筋の流れ星を見るまでは。
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