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私にはお気に入りのお店がある。学校から帰る途中、道路の横にある大きな林を進んでいくと見つかるおしゃれな喫茶店。赤レンガの壁がかわいくて、黒い針金を丁寧に曲げて作った装飾品がいっぱいかかってて、扉の前に立つだけで中から暖かい匂いが流れてくる。
扉を開けると、からんころん、と音がした。そして、カウンターでティーカップを拭いていたマスターが私を見る。ビシッ、って感じの白いワイシャツと黒のベストはいつも通りで、私は彼の胸元で光るオレンジのペンダントに目を合わせた。
「おや、美咲さん。……この時間は、まだ学校じゃなかったっけ」
いきなり痛いところを突かれてしまったけれど、私はそれを華麗にスルーしてカウンターの席へ座った。確かにセーラー服を着て学生カバンを持った女子高生が平日昼間の喫茶店に出没するのはおかしいだろうけど、ちょっとくらいおかしいからって気にしない。そんなの、もう慣れっこだし。
「それよりマスター。私、おなか空いてるから何か甘いもの作ってよ」
「構わないけれど、美咲さんの口に合うものが出せるかはわからないよ? なんせ、うちは古臭い店だから若向けのメニューがなくてね……」
「喫茶店なんだしフツーにサンドイッチとかそういうは? ジャム挟めば大抵甘くなるじゃん」
「あぁ、確かに。じゃあそれにしようか」
納得した様子で、マスターはお店の調理場へと体を向けた。
「そうそう、忘れるところだった」
調理場に行くその前に、マスターは私の前に小さなお皿を置いた。その上にはゼリーを固めて小さくカットし、砂糖をまぶしたようなお菓子がいくつか乗っている。色は赤とか黄色とか様々で、かわいいという感想が口をついて出た。
「ギモーヴはおまけだよ。古い友人からいただいたもので、たくさんあるからお客さんにお出ししてるんだ」
マスターの声はどこか楽しそうだった。顔をあげてマスターの顔を見てみようかとも思ったけれど、むなしいだけだから止めた。私は女子高生らしく視線をギモーヴというお菓子に向け、ケータイを取り出して写真を撮った。
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