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カメラロールを見ていると、そこにあるのは可愛らしいお菓子や湯気の立ち上るカップ、おいしそうな喫茶料理の写真ばかり。中には食べ物だけじゃなくマスターや他の常連客の写真もあって、ぼんやり眺めていると自然に息が漏れた。
ギモーヴを一つつまんで口の中に入れると、砂糖のざらざらとした触感が楽しくて、広がっていく甘い味もお気に入りだ。柔らかい感触の次に舌を刺激するのは果物の味。それが何かはよくわからなかったけれど、とにかくフルーツって感じだ。
からんころん。
可愛らしい音がして、私はお店の入り口に目を向ける。すると、そこには髪の長い女の人がいた。私よりずっと背が高くて、真っ黒な髪を持った人。
「美咲ちゃん、学校はサボり? この時間にいるなんて悪い子ね。魔女になっても知らないわよ」
くぐもってるけど綺麗な声。私は二回目の注意を受けてちょっと嫌な気分になりつつも、横にある椅子を動かして座りやすいようにした。
「そういうマメィだって働いてないくせに。マスターから聞いたよ。ずっとここに入り浸って怪しい研究してるんでしょ」
「あたしは特別なの。それに、私にとって仕事なんてのは遊びと同じだわ」
よくわからないことを言いながら、マメィはテーブルの上にあるナプキンを一枚取った。そして、それを細い指先で折りたたんでいき、もうたためないほど小さくすると右手の中に隠してしまう。
じっとマメィの右手を見つめていると、急に開いた右の手の平にはナプキンじゃなくてプラスチックのティースプーンが乗っていた。さっき隠したはずのナプキンはなくて、さっきなかったはずのティースプーンが現れて……。
「この程度、普通の人間にもできるんだからそんなに目を輝かせないでほしいわ。……それより、学校には行かなくていいの?」
「別に今そんなこと言わなくてもいいじゃんか。私、学校嫌いなの」
「言葉を間違えるのはよくないわ。美咲が嫌いなのは学校じゃなくてクラスメイトでしょう? 楽しそうにおしゃべりして、流行りの店に寄り道して、我が世の春って感じに青春を謳歌してるのが気に入らないだけのくせに」
マメィの言葉は胸にぐさりときて、何も言えなくなった私はギモーヴを一つとって口の中に放り込んだ。
「だんまりなんてのはダメな女のすることよ」
容赦ない追撃もスルーだ。私はギモーヴをまとめていくつか掴み、口の中に入れようとした。
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