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サンドイッチにかぶりつくと、柔らかいパンの感触と冷たさの残るジャムの甘さが口の中に広がった。パンの隙間から見える赤いストロベリージャムは宝石を溶かしたみたいにきらきらしてて、舌に感じる甘さは極上だった。
「マスター、これすっごくおいしい!」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。僕は自分で食べることができないけど、美咲さんの表情を見ていると味まで伝わってきそうな気分になるんだ」
褒められてるのか褒められていないのかよくわからない言葉はともかく、私は次々にサンドイッチをほおばった。時折、あたたかいアップルティーで唇を潤しながら、マスターの作ってくれた料理を平らげるのには五分もかからなかった。
「ありがとう、マスター」
「いいえ、どういたしまして。……さて、おなかがいっぱいになったのなら今日はそろそろ帰りなさい。あまり言いたくないけれど、美咲さんほどの人でも影響がないわけじゃないから」
寂しさを含んだマスターの言い方は気になったけど、それは少しずつ気づいていたことだった。
この喫茶店に通うようになってから、私の耳はものすごくよく聞こえるようになった。今までもそうだったけど、どんどん凄まじくなっている。それがなぜなのかは、考えなくても答えが見つかっていた。
「……別にいいよ。私、どうせ学校に馴染めてないし、家でもほったらかしだから」
「だからと言って、このままじゃいけないよ。実は、一つ提案があるんだ」
私にそう伝えてから、マスターはマメィの腕を指先でつついた。それに気づいたマメィは言葉を止め、私の表情とマスターの雰囲気を見て空気を察知した。
長いまつ毛を下に向け、瞳に暗い色を浮かべたマメィは懐に手を伸ばす。何かをつかんだ右手が私の前に差し出され、開いた手の平には赤い色をした小さな小瓶。
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