1話

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 「ふわあぁ~」と大きな欠伸を一つ。「また乙女ゲームしてたの?」と親友の舞が前の席に座りながら問い掛けてきた。 「そうだよ」 「真宙も飽きないねー」  飽きて堪るか。  胸中でツッコミながらも「二次元の恋人達を裏切れないから」と中二病的発言をしてみる。  舞は笑って「現実の世界でも彼氏作ればいいのに」と言ってくるがそれは無理な話だ。私が男を苦手なことは舞も知ってるくせに、勿体無いといつもそんな事を言ってくる。 「私が真宙くらい可愛かったら彼氏の一人や二人……いや、五人くらい作っちゃうのに」 「何その乙女ゲーム的展開は?」 「ゲームの話じゃなくて現実の話。真宙のこといいなーって言ってる男の子は結構いるよ?」 「……興味ない」  嘘だ。興味がないわけではない。  私だって花の女子高生。恋愛に興味がないわけじゃない。でも二次元の世界では恋愛マスターな私だけど、現実の世界では経験値が圧倒的に足りないのだ。男の子と会話をするだけで緊張してしまうのに彼氏なんて無理に決まってる。 「そっか~。残念だな」  おっとりと笑う舞は私の気持ちを汲み取ってか、それ以上何も言ってはこなかった。  舞とは高校に入ってからの付き合いだ。最初は席が近いから話すようになって、段々と仲良くなった。舞はオタクじゃないけど、私の趣味については気持ち悪いとか否定的な意見は言わないでくれる。好きなものを否定されないのは嬉しいことだ。現実を見た方がいいとは言われるけど。  女の私から見ても舞は可愛い。明るくて、元気で、誰にでも分け隔てなく優しい。乙女ゲームの主人公みたいな娘だなと思っている。でも人に『残念なオタク』なんて称号を付けちゃうとこはそれっぽくないかも? 「それはそうと、真宙は男同士の恋愛も好きなんでしょ?」 「大きな声で言わないで!」 思わず大声を出してしまった。 私はオタクだし、確かに男同士の恋愛は好きだ。でもそれを人前で話すのはどうかと思うのだ。最近では市民権を獲得して「私オタクです!BL大好き!」と高々に宣言している人もいるが私は違う。オタクとは本来隠れて生息すべき存在だと思っているので人前でおおっぴらに話すのは苦手だ。勿論考えは人それぞれだから私の場合は、だけど。まあ、私も別にオタクであることを隠しているわけではないけどね。
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