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そもそも佐藤君は茂野君が好きなはずだ。言うことのできない想いを胸に秘めながら友達として付き合い、ふとした触れ合いにドキドキしながらもこれは許されない恋だと胸を痛めるのだ。ああ、せつない。でも茂野君も佐藤君に友達以上の想いを持っていて悩んでいるの。両想いだと気付かずに悩みながらも思うことをやめられない二人のキューピットに私はなりたい。
「高崎さん……?」
黙ってしまった私の顔を心配そうに覗きこんでくる。
ごめんなさい。ちょっと妄想してました。すみません。
「ご、ごめんなさい!私……」
断ろうと頭を下げてから気付いた。もしあの噂が本当なら、ここで私が断ると佐藤君が不幸になってしまうのではないだろうか?私なんかの所為で佐藤君が不幸に……。そんなの絶対に駄目!でも付き合うのも無理だ。
どうしよう?どうすればいい?どうするべきなのか誰か教えてほしい。
「私、その、オタクなんです!ふ、腐女子でもあるんです!だからごめんなさい。私を振ってください。お願いします!」
ぺこりと頭を下げ、その場から逃げ出そうとしたのだけど出来なかった。
佐藤君が私の腕を掴んでいる。
男の子に触れられている事実に驚き、顔に熱が集まっていくのが分かった。鼓動が速まり、頭がくらくらしてきた。
「大丈夫。全部知ってるから」
「……え?」
混乱しながらも見ると、佐藤君は微笑んでいた。いつもの様な爽やかな笑顔だ。
「高崎さんの趣味は知っているから。僕と茂野とで、妖しい妄想をしている事も知ってるよ」
笑顔を崩さずに言われ、背筋に冷たいものが走る。掴まれていた腕を振り解き、
「ご、ごめんなさいっ!」
勢いよく深々と頭を下げる。
まさか本人に知られていたとは思わなかった。謝っても許してもらえるかは分からないが、謝るしか出来ない。
「別に怒ってないから頭を上げてよ。そんな事より高崎さんにお願いがあるんだ」
顔を上げてほっとしたのは佐藤君がまだ微笑んでいてくれたからだ。どうやら本当に怒っていないらしい。
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