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日が暮れてからの時間を数え上げながら、ベランダで星を見ていた。頬を撫でる秋の冷気は、火照った血脈を柔らかに冷ます。つい先月の夏の熱波が嘘であるかのように、物見台から見える楓はうっすらと色付いていた。
太陽が没してから、既に七時間が経とうとしていた。つまり、時刻は午前1時。空に散りばめられた金粒は、いよいよその輝きを増して来る。
救急車の僅かなサイレン音と、遠くに眺める赤々としたビル群と、その他には一切の寂莫のみが周囲を満たしていた。空気も澄んでおり、新鮮であるかのように思える。しかし、都会の空から覗ける星の種類は、それ程多くはなかった。
目を瞑り、暗闇に身を委ねる。微小な風までも、繊細に感知する事が出来た。囁くように鼓膜を舐めるそれは、ビル群に住まう人々の怨声のようにも聞こえたし、また救済を渇求する死人の声のようにも聞こえた。いずれにせよ、あまり良い意味ではなかった。
一人の時間も悪くはない。孤独ではあるが、ひどく充実した時間だった。何より、雑踏から聞こえる罵声のような、そういった些細な事象でさえも、機敏に察知出来る。そして、それを知らず知らずの内に軽蔑している、愚かな自分でさえ、冷淡に客観視する事が出来る。
瞼を開け、再び夜空を見詰める。今日は新月ということもあってか、いつもより空が暗いようだった。つい最近LED電球に取り替えられた街灯が、やけに眩しかった。中学生の頃に学んだ知識を引っ張り出して北極星を探そうとしたけれども、どうしてもカシオペア座が見つからずに、断念した。訳もなく涙が一筋落ちて、訳もなく虚しくなった。
三年前に死別した彼女に、逢いたくなった。
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