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 女将から事情を聞いたのは、それから数回通った後のことだった。  例のヤクザ者は毎回かならず十三時半になると現れた。そのたびに奥の指定席に座り、メニューに無い物を注文する。女将はあの手この手でそれに応え、時折、「今月分」の入った茶封筒を渡していた。 「借金がありまして」  ある日、十四時近くなってもあの男が現れなかったので、思い切ってどういう関係かと尋ねてみた。女将は苦労が恥じらいまでも拭い去ってしまったという顔で、他界した父が借金を残していたこと。払えないなら土地を寄越せと言われたが、父の店をどうしても手放したくなく、なんとかやり繰りして返済を続けていることを話した。 「所謂、闇金融です。いつ返し終わるのやら」  自嘲気味に微笑んだ女将を見て、俺はやっと彼女が三十代も前半の若い女性だということに気がついた。 「でも、いい人なんですよ、あの人。無茶な注文はするけど、乱暴な取り立てはしないし、ご飯も必ずお米の一粒も残さず食べてくれるもの」  ただし、どうしてかき入れ時のランチタイムに取り立てに来るのかは彼女にもわからず、十三時以降の客足の激減は明らかに奴のせいだということは気がついていた。 「営業時間外にして、と言ってみたんですか?」  俺は卵スープを啜りながら聞いてみる。女将は困り顔で首を振った。 「怖くて、そんな。返済を待ってもらっている身ですし、それ以上のことは……」  聞いてくれてありがとう、と女将は唐揚げをひとつおまけしてくれた。
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