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 入店した途端、店内はサッと静まり返った。怖いもの知らずの好奇の視線が、二、三俺の上を彷徨う。男は真っ直ぐに突き当たりのボックス席に座り、大盛りナポリタンのランチセットを注文した。 「あんたは」 「え」 「コーヒーな」  程なくして、毛糸玉のようなナポリタンセットと、選んでいないコーヒーが目の前に並んだ。 「おい。どういうことだ。あの女に何を聞いて、そんでなんて言ってたんだ」  肉を貪るゾンビのような形相で、ヤクザの男はナポリタンを啜りながら身を乗り出す。 「いや、あの。親父さんの借金を返すために店を一人で切り盛りしてるとか……」 「お、オレのことは?なんて言ってたんだ?」 「え、いやーあの」 「もう来てほしくないって?」  そりゃ、借金取りに来てほしくないのは当たり前だろう。危なく出かかった言葉を飲み込んで、俺は慎重に言葉を選びながら返した。 「というより、さっきも言ったように、あなたがランチタイムに店に来ると他の客が怯えてしまうんですよね。あの店って十三時までは賑わってるんですけど、その時間を過ぎるとぱったりと客足が止んで。あなたが来る十三時半以降はからっきしです」 「……それがオレのせいだって言うのか?」 「えー、まあ。はい」 「くそやろう!」  ドンッと男が机を叩く。フォークが跳ねて音を立て、コーヒーが溢れた。店にいた客が恐る恐るこちらを振り返る。 「オレにはあの店で飯を食うことも許されねえのか!」 「へ」 「ひでぇよ……差別だ……ヤクザに対する差別だ……オレが何をしたって言うんだよ……」 「高利貸し。借金の取り立て」 「くそ!」  またしても机を叩く。アルバイトが慌てて店長を呼び、口をつけていないコーヒーがカップの半分まで減ったところで、俺はなんとか彼を止めた。 「まあ、あんな風に乱暴に入ってきたり、店内で怒鳴ったりすれば、ねぇ?」 「ぐ……」 「せめて営業時間外に来てくれればって言ってましたよ、女将さん」  男は見る見るうちに悄げて小さくなっていた。眉はハの字に垂れ、ソファーの中で縮こまっている。瞳は相変わらず濡れていた。
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