4人が本棚に入れています
本棚に追加
「わ、私にですか?」
「はい。あなたに持っていて欲しいんです」
こ、この展開はまさか?! と小春の脳内に90年代ドラマの主題歌が流れそうだったが、そんなわけはない、と冷静に思い直し、手を伸ばしてそれを確かめた。
小さく透明なジップの袋に入っているのは、銀色のロザリオだった。
持ってみると重みを感じる。細工もこまやかで、メッキの安物ではない。
「これ、私なんかがもらってしまっていいんですか?」
「はい。あなたに持っていていただきたいんです」
「ありがとうございます……!」
声がうわずるのを、なんとか抑えた。
――どうしよう、嬉しい。
初めての吏那人からの贈り物だ。
これはもしかして、いわゆるひとつの脈アリというやつなのだろうか。いや、楽観は禁物だ。クッキーと同じ、常連客へのサービスかもしれない。
とはいえ、誕生日でも記念日でもないのにこんなアクセサリーを、ただの客に贈るものだろうか?
包装がかなりラフなのが気にかかるが――
「それ、肌身離さずつけていて下さいね」
あれこれと考えを巡らせていた小春は、吏那人に念を押されて「は、はい?!」と浮き足立った返事をした。
肌身離さずつけていろ、だなんて、まるで恋人同士のようではないか。これは本当に幸先がよいのでは――
そのとき、ドアのカウベルが鳴って、「いらっしゃいませ!」と吏那人は振り返った。
「なんだ、あなたでしたか」
いつも温和で丁寧な物腰の吏那人がそんな気安い口調になったことに気を惹かれて、小春もド入り口の方へ目をやった。
「なんだとはご挨拶ね」
そこにいたのは、まぎれもない美女だった。
右目を覆う黒い革の眼帯が真っ先に視線を集めるが、切れ長の二重の左目と高い鼻梁は古い日本映画のヒロインに似ており、ウェストの細い垢抜けたコートを着こなしていた。
ファッションモデルか、女優のようだった。
最初のコメントを投稿しよう!