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美女は大きな金属のアタッシュケースを足下に置くと、すっと寄ってきたバンダナの店員にコートを渡し、手近な椅子に遠慮なく腰かけた。
「営業中ですよ」
苦笑する吏那人に、美女は「だからきたのよ。届け物ついでにリナトの料理が食べたくなってね」と頬杖をつき、もう片方の手をまっすぐに伸ばした。
「メニュー」
「はいはい」
尊大な女主人と忠実な執事、といった風情だろうか。
明らかにただの知り合いではない、親密な空気が2人の間にはあった。
小春は、急に惨めな気持ちになった。
何を思い上がっていたのだろう。恥ずかしい。
彼ほどの美形であれば、ああした美女とでなければ釣り合いがとれまい。
手元のロザリオが、白々しく照明を反射する。
これ以上ここにいたくはなかった。
「ごちそうさまでした。お勘定お願いします」
「あ、はい、ただいま――」
慌ててレジに入ろうとした吏那人より早く、店員が動いて会計をしてくれた。
ありがとうございました、という吏那人の声に振り向かず、小春は店を出た。
外へ出た途端、身を切るような風が吹きつけてきて、寒さがいっそう、こたえた。
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