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「ダイエットなんて絶対に嫌ですよ」
若鶏の手羽先ピーナッツ和えから肉をはぎ取りつつディブは言った。
「僕は信念をもってこの体型なんです。いつか来たる氷河期のために!いつか向かってくる銃弾の嵐から僕の奥さんを守るために!」
そういいつつ、また一本油のたっぷり絡んだ鶏肉を手に取る。k大学食べ歩き同好会でも最も年上の会員の一人となった俺でもこいつに奢ることはない。今日の夜食った分でも軽く10000円を超えているのだ。そしてその結果身についたのは胴回りをタイヤほどに膨らませる脂肪と、その体型と妙にバタ臭い二重の目から生まれたディブという渾名だけである。
「そんなので、奥さんどころか彼女だってできるかよ。体重136キロ、身長175センチ。どんな奇特な女と籍入れる気だ」
「ははは!」高らかに笑うディブ。
「そんなの、いらねーですよ。彼女なんて金かかるだけ、売れも食えもしないんですから。軽い冗談ですよ。軽い冗談。僕は一生独り身です。奇しくも先輩と同じく」
「うるさい」
負け惜しみでなく本気で言っている目である。それだけに恐ろしい。こいつは本当に飯に人生を捧げる気なのだ。天は飯の上に人を作らず。人間は、考える飯である。天下一の食事至上主義なのである。
k大学食べ歩き同好会は、来たいときにきて、集まりたいやつで集まるという典型的だらだら系サークルなのだが、ディブだけは運動部並みのモチベーションで来られる限りの会合にやってくる。食うことがディブのライフワーク、いや、ライフそのものなのだ。
だけど、そういえば、1つ、こいつにとって飯の地位を揺るがすほどの特別なものがあった。
「なぁ、それなら、例えば、もし俺があと一か月で10キロ痩せたら10万やるって言ったらどうする」
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