元神さま現る

12/16
1人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
 背後から聞こえた声に、心臓が口から出そうになる。反射的に振り向くと、藍色のエプロンが目に入る。神崎かと視線を上げようとすると、足元でガシャンと嫌な音がする。  店員を確認するより先に恐る恐る足元を見ると、陶器の破片が散らばっている。振り向いたときに、バッグをぶつけて割ったのかもしれない。 「すいません、弁償します」  財布の中にいくら残ってたっけ。  バッグから財布を出しながら、足元に落ちていた値札を盗み見る。一に〇が六つ。 「百万?」  予想以上の数字の大きさに、紗良は目を見開く。  さすがにそんな持ち合わせないわ。駅構内にATMあったかな。 「神崎くん、なんやガッシャーンって」  レジで早業を披露していた女性がやってくる。床に散らばった陶器の破片を見ると、まあまあまあとバックヤードへ向かう。 「お怪我ありませんか」 「大丈夫です。大切な商品を壊して申し訳ありませんでした」  このタイミングでようやく見た店員はやはり神崎だったが、できればこんな失態を彼には見られたくなかった。 「商品?」  神崎が首を傾げるので、紗良は震える手で値札を指さす。 「ごめんなさいね。うちの孫がお店屋さんごっこ好きで、へんなもん置いとくんよ。これ、お父さんの失敗作やから気にせんでな」  バックヤードからほうきと塵取りを持ってきた女性が、しゃべりながら破片を掃き集める。 「商品じゃない?」     
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!