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背後から聞こえた声に、心臓が口から出そうになる。反射的に振り向くと、藍色のエプロンが目に入る。神崎かと視線を上げようとすると、足元でガシャンと嫌な音がする。
店員を確認するより先に恐る恐る足元を見ると、陶器の破片が散らばっている。振り向いたときに、バッグをぶつけて割ったのかもしれない。
「すいません、弁償します」
財布の中にいくら残ってたっけ。
バッグから財布を出しながら、足元に落ちていた値札を盗み見る。一に〇が六つ。
「百万?」
予想以上の数字の大きさに、紗良は目を見開く。
さすがにそんな持ち合わせないわ。駅構内にATMあったかな。
「神崎くん、なんやガッシャーンって」
レジで早業を披露していた女性がやってくる。床に散らばった陶器の破片を見ると、まあまあまあとバックヤードへ向かう。
「お怪我ありませんか」
「大丈夫です。大切な商品を壊して申し訳ありませんでした」
このタイミングでようやく見た店員はやはり神崎だったが、できればこんな失態を彼には見られたくなかった。
「商品?」
神崎が首を傾げるので、紗良は震える手で値札を指さす。
「ごめんなさいね。うちの孫がお店屋さんごっこ好きで、へんなもん置いとくんよ。これ、お父さんの失敗作やから気にせんでな」
バックヤードからほうきと塵取りを持ってきた女性が、しゃべりながら破片を掃き集める。
「商品じゃない?」
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