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「なんでも百万円って言うんよ。値札も自分で書いて」
言われて値札を見れば、確かに子供が書いたらしい拙い字だ。
百万円の弁償金がなくなったことに安堵し、その場に座り込みたくなるのをぐっとこらえる。大きな破片を拾おうと手を伸ばす。
「ええよ。ごめんなさいねぇ、子供のいたずらでびっくりさせて。お姉さん、観光やないの? 新幹線、大丈夫?」
紗良は血相を変えて腕時計を見る。時刻は午後五時を過ぎたところだ。新幹線の時刻は五時に十分前。お土産を購入して、ホームに上がればぎりぎりの時間だ。
「神崎くん、お姉さんに付き合ってあげな。午前中、言ってた子やろ」
何を?
神崎を見れば、彼はわずかに顔を赤くして頷いている。紗良の視線に気づいた神崎は咳払いを一つすると、店員の顔を作る。
「京都土産の定番、抹茶のお菓子からでよろしいでしょうか」
「お願いします」
神崎が何を話していたか気にはなるが、新幹線の時刻が迫っている以上はお土産が優先だ。定番の抹茶菓子、お漬物に地酒と神崎のアドバイスで選んでいく。薦めてくれるのは、どれも良心的な価格だ。
時計の文字盤とにらめっこしながら、紗良はレジへ進む。
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