元神さま現る

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 就職してから毎日が目まぐるしくて、空を見上げたことなんてなかった。目を閉じると秋風がさらりと肌を撫でていく。風は冷たいけれど、陽だまりにいるおかげで心地よい。 「結婚式だ」 「結婚式に遭遇するって、うちら運よくない?」  声がしたほうに目をむけると、制服を着た女子高生がはしゃいだ声を上げている。その向こうでは親族そろっての写真撮影の真っ最中だ。当然、中央にいるのは幸せそうな羽織袴と白無垢の新郎新婦だ。式に飽きたのか彼らの甥っ子と思われる子が、足元の小石をいじっているのが微笑ましい。 「参拝しなきゃ」  踵を返し、参拝に向かう。  突然の電話と結婚式に遭遇したことで、下鴨神社に来た目的を忘れていた。財布を開くと小銭らしい小銭はない。あるのは五百円玉一枚と紙幣だ。  五百円出すしかないのか。  情けは人の為ならずという言葉が思い浮かぶ。回りまわって自分に返ってくる。この五百円だって回りまわって、返ってくるはずだ。 清水の舞台から飛び降りる覚悟で私の人生をかけた五百円を投入し、二礼二拍手して目を閉じる。  あれ? 私、何をお願いしに来たんだっけ?     
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