泥舟の会

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女性は私の知人の、航空会社に勤めるCA3人である。 私のツテの全てを使って来てもらった。もちろん美人だ。ノリもいい。文句なしだ。 が、男性陣は地獄よりの使者だった。 まず、3人が遅刻した。 この時点で就職面接だったらお祈り、テニスだとデフォルトで即失格である。 ちなみに最初に来ていた男一人は、例の失礼な同僚だ。 彼もまずいと思ったようで、4対1の圧倒的不利の立場で生き延びるべく、総書記に相対する北朝鮮の高官のごとく女性陣の会話の同調に終始していた。 女子会が始まって30分後、二人の男性がやってきた。 二人とも、謝りながら入ってきた。どうやら水戸支社から会場の有楽町までわざわざ来てくれたらしく、それで女性陣の怒りは少し和らいだ。 その片方が、彼だった。第一印象は「営業部っぽい」だった。 彼は席に着くなり、うるさくも真面目すぎもしないちょうどいいテンションでビールを注文した。そして、自然に会話の糸口を掴み、するりと馴染んだ。人の懐に入り込む、独特の人懐っこさがあった。いわゆる人たらしだ。 そして、大物がいた。彼の片割れ、「先輩」である。 先輩は同僚の3つ年上で、バンドマン崩れのようなイケメンだった。 男性陣が明らかに先輩に気を使っている。グラスが空いては注ぎ、女性の会話は全て先輩にトスする。だが、先輩は喋らない。黙って頷きグラスを空け、同僚が注ぎ、「飲めよー!」と叫び、同僚が飲んで笑う。 しらける女性陣を、私と彼が必死につなぐ。 上手くいかない合コンで、気難しい中堅俳優ときゃぴきゃぴしたアイドルがかみ合わずにMCの若手芸人が張り切るバラエティのような空気の中、私と彼は必死で喋っていた。 ちなみに、最後の一人は終わる10分前に息を切らせて来た。 来る前に「芋洗坂係長」という芸人に似ていると彼が言っていて、本当に似ていた。 「あ、芋洗坂さんだ」という感想を全員に抱かれて、彼の出番は終わった。
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