泥舟の会

5/10
前へ
/10ページ
次へ
恋愛は、麻薬だった。 「犀のようにただ独り歩め」という言葉がある。 私の座右の銘で、それに従って生きてきた。 人はみな孤独だと思っていたし、そういうものだと思っていた。 恋人がいなくても、私は「きれい」に生きていけると思っていた。 私の生きてきた二十余年が培った経験則もルールも、たかが3時間の夜に打ち崩された。 たかが3回のデートで、「彼を失ったら死ぬ」と思うほどに、執着している自分がいた。 そして、それでいいと思っている私がいた。 私は、私に絶望した。 数ヶ月前の私が見たら軽蔑する姿だとさえ思った。 でも、いつも通りの冷たい砂漠へ地獄くだりをする勇気は、私にはなかった。 彼と六畳間で抱き合っている間は、宇宙の中で私たちだけ、「同じ時間を一緒に生きている」感覚が確かにあった。 遠い遠い海を一人で泳いできて、ようやく手に触れたブイを抱きしめた気がした。 たとえ、彼と私をつなげたものが性欲だったとしても、それでいいと思った。 私は、性欲に初めて感謝した。 性欲がこの感情を生むのなら、二十数年共にいた理性を殺してもいいと思った。 そして、別れた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加