カズさんのお店 

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開店の準備はOKだ。今日の予約は1件。老人ホームの施設長とその取り巻き6人だ。お通し、鍋の用意、コンロのガスも点検済み、あとはお客さんが来るのを待つばかりだ。テーブル席はカウンターからは見えない様になっていて、騒がしくなりがちな団体さんにはこのテーブル席を使ってもらう。売上伝票に今日の日付を入れながら、「今日はひと荒れきそうだな」と店主のカズさんが呟いた。 ここは「和食どうぞ 一」(わしょくどうぞ かず)という、開店して6年目の店だ。冬は河豚、春・夏は山菜、とうもろこしの天ぷら、秋はキノコ料理をメインに、その日の市場の入荷状況でチャチャチャとアレンジして出してくれる料理は至福の一皿だ。そしてまだ食べたことのない(他の客は食べたであろう)あれもこれも食べたくなるのだ。アゲインの店と呼ぶ人もいるくらい、どうしてももう一度来たくなる、本当の意味で実力のあるお店なのだ。店主のカズさんの料理は文句なく美味しいのだが、それだけじゃない。カズさんのちょっと不思議な力がこの店の重要な調味料となっている。
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